6月/気持ちの持ち方

 滋賀県大津市で歩道を信号待ちしていた保育園児に車が突っ込む事故がありました。園児2名は死亡、他の園児や職員も全員が重軽傷を負ったという傷ましい内容でした。事故直後から文部科学省・厚生労働省より「園外保育のお散歩ルートの確認」などが数多く届きました。交通事情を考えてお散歩コースを見直したり、安全に今まで以上に配慮することは、とても重要なことですが、園外保育を控えることがあってはいけません。乳幼児にとって園外に出て、四季の変化などの自然を感じることや交通事情を数多く経験し自己の安全確認や危機回避能力を高めることは大切なことです。保護者の皆さまに於いても、つい「家から外に出るのはなるべく控えよう」と考えがちですが、この時期に外出して得られることは本当にたくさんあります。しかし一定の時期を逃すと得られなくなることもあることをご理解ください。
 先月号の園だよりで「幼稚園(3歳児)入園までに『2㌔(時間にして40~60分程度)は歩けるようにしておこう』というのが目安です。歩くことで足腰が鍛えられるというメリットの他に歩くことで脳への刺激が伝わります。海馬(かいば)という脳細胞がどんどん増えることになります。海馬は『好奇心』『探求心』を旺盛にします」と書きました。最近ある大学の先生と話すと「幼児の適切な運動量は1日11,500歩」とおっしゃっていました。距離にすると5~6㌔になります。皆さまのお子さんはこれくらい歩いて(運動して)いますか?これより少ないとストレスを感じることもあるようです。(3-6歳の子どもにとって1日9,000歩以下では不活動と考えられるともいわれている)
 5月に職員で掛川の講演会に参加しました。講師の先生からは幼稚園と小学校の接続についてのお話がありました。また会話の重要性も話され、話が弾むマジックワードとして「いいね!」「すごいね!!」「なるほどね?!」を使うことを勧められました。確かにこれらの言葉を使うと子ども達は意欲的に話を膨らめてきます。ご家庭でもぜひ「いいね」「なるほどね」などを使って親子の会話を盛り上げてください。
 子育て相談をしていると「子育てのすべてが大変で…」とおっしゃる方がとても多いです。ひとつのことがうまくいかないと負の連鎖が始まります。赤ちゃんが産まれ、夜泣きがひどく寝不足になる。余裕がなくなりイライラする。そんなお母さんの様子から子どもが不安を感じ、必要以上にわがままをいって甘える。その姿に怒れてしまう。怒られた子どもは大泣きをする。泣いている我が子を見てどうしたらよいのかと途方に暮れる。こんなことはありませんか?すべてを改善するのではなくて、一点突破が大切です。まず朝だけでも心に余裕を持ってゆっくり抱っこをして言葉をかけてあげましょう。子どもの心が満たされ満足し、お母さんもオキシトシンがいっぱいになり心が安定し、幸福感を感じる。ひとつのことからすべてが好転することは良くあることです。
 人間は気持ちが大切です。テレビでこんな放送を見ました。便秘で困っている二人が登場、Aさんは10日間、Bさんは1ヵ月もお通じがないことがあるそうです。食事に野菜を多くしたり、運動をしたりしても効果はサッパリということでした。そんな二人にお医者さんが5分電話でアドバイスをしました。すると数時間後にお通じがあるようになりました。その後も毎日、お通じがあり、便秘が解消しました。お医者さんは「便秘が悪いことだと思っていませんか?それはあなたの体質なのだから悲観せず自信を持って生活してください」という内容を話しただけでした。つまり気持ちの問題で安心したら便通が良くなったのです。「病は気から=気持ちの持ち方で良くも悪くもなる」は本当ですね。
私自身も先日こんな経験をしました。毎月放送しているFmハロー!「つながるねっと」ですが、生放送のために「失敗できない」との想いから放送直前は毎回緊張がMAXになり、咳が喘息のように止まりません。(放送が開始されるとなんとかなるのですが…)5月は、放送当日がクルーズ旅行中だったため録音収録にさせてもらいました。6年目にして初の録音収録です。すると収録前にも咳がまったく出ません。録音だから失敗しても、取り直しができると心のどこかで安心していたのでしょうね。人間の自意識って本当にすごいものがあるのだなと自分自身で実感しました。
今月は運動会があります。龍の子開園以来初の6月開催の運動会です。当日の結果にとらわれず、これから頑張る目標を設定する運動会です。入園式の時に泣いている子ほど「伸びしろがたくさんあると思ってください」と申し上げました。この運動会も同様に考えてください。(だからといってまったく練習せずに当日を迎えることは避けてください)
親子で運動会前をできる範囲で練習をこなす中で、いっぱい励まし、いっぱい会話をしてください。そして当日はどんな結果になろうとも温かく受け止めてあげてください。
そして親子の絆をつくるために目標に向かって頑張ってください。
 運動遊びの話をする時に必ず思い出すことがあります。それはマサトくんのお父さんです。マサトくんはアトピーがひどく入園前はほとんど外出したことのない子でした。だから運動遊びも苦手でした。運動会でも、当時は80%の子がきりん積木ができる中、うさぎ積木が精一杯でした。しかしその後も毎週毎週(当時は毎週園庭開放がありました)園庭開放に一家で参加して頑張りました。年が明けた2月末、きりん積木に手が届きそうなところまできました。「お父さん、後少しですね」と声をかけると「先生、私は今とても不思議な気持ちなんです。『早く出来てくれ』という想いと、『まだ出来てくれるな、もっとこの大切な時間を続けさせてくれ』という想いが交錯しているんです。この家族でマサトを応援してあげられる時間を大切にしたいと思っています」と話されました。そして3月最初の園庭開放でとうとうマサトくんはきりん積木に手が届きました。「おめでとう!!」と声をかけると、お父さんが「ありがとうございます。でも先生、来週、もう1回園庭開放に来ていいですか?」とおっしゃいました。そして次の週に家族で最後の園庭開放を行ないました。「本当に大切な時間を過ごすことができました。マサトだけでなく、家族の一生の宝物になるひと時でした。ありがとうございました」。
 目標に向かって頑張ることは何のためでしょう?幼児の大切な時期に親子の絆をしっかり作るためです。目標に向かうことが大切であって、達成することがすべてではないと考えます。一番大切なことは目標に向かう過程です。結果だけにとらわれることなく、家族で支えてあげてください。そして気持ちよく目標に向かうことができるように心のケアもよろしくお願い致します。